WHISKY物語。Vol.04 WHISKY AND WATER [2009/09/21]



彼女の笑顔と[Whisky and Water]、[ST.Thomas]をB.G.M.にして...

 この店にはいろんなお客さまがらっしゃるけれど、彼女は忘れられないお客さまの一人である。

 ある日、おずおずと入ってきたお客さまは、30歳前後のとてもきれいな女性だった。ハーフと言うか、クォータと言うか。
どちらかと言えば、ロシアとか北欧の血が混じっているのではあるまいか。
 そんな雰囲気の彼女は、物静かだった。ポツリポツリと話し始めた彼女の話題は、ネコ。まだ子猫の頃に拾ってきて、もう8年ほどたつという。いまの自分にはかけがえのない存在で、家族の一員らしい。
そのネコにとってはお母さんでもあるけれど、逆にそのネコに癒されている自分が居ると言う。

 でもホントなら、そのネコより愛する男を見つける方がいいのではあるまいか。
ある意味、ペットに傾倒するのは現実からの逃避なのかも知れない。
そんな意味では、きっと今まで辛い思いばかりをしてきたのかも。
だからこそ、彼女には幸せになって欲しいと思う。
そんな思いを込めて、いつも[WHISKY AND WATER]をつくる。
まず、グラスは冷やしすぎない方がいい。野菜室くらいの温度のグラスに、常温の[WHISKY]をワンショットそそぐ。大きめの氷を3個、そしてステアは12回。そこに、良く冷やしたミネラルウォーターをそそぐ。
彼女には、4倍の富士山の天然水で水割りを作る。

 半分くらい飲むと、ようやく上気してきて、頬が少し赤くなる。
ちょっときつめに思えた顔が、優しくなる。
そして、笑顔は子どものようだ。
しゃべり方も、少し甘えた感じになる。
こんな感じの彼女には、誰もが恋心を抱いてしまうだろう。
私でさえ、ほのかに気持ちが動いてしまう。

 しかし、彼女はなかなか人に心を許さない。
肝心の所では、自分を壁の中に隠す。
それは、いままで生きてきた方便なのかも知れない。
その彼女の心の中に入っていけるのは、いまはネコだけなのだろう。
でも、それがいまの彼女には幸せなのだろうが...

 彼女は、いつも水割り2盃で終了だ。
ゆっくり飲んで、笑顔になって帰る。
そんな彼女が最後に来たのは、もう2年も前のことだろう。
私は、忘れない。
いつかきっと、また訪れてくれる日まで、
私は忘れない、薄目の水割りと笑顔の彼女を。