WHISKY物語。Vol.02 ON THE ROCKS [2009/09/21]



[On The Rocks]の氷が溶けるとき、[Take Five]をB.G.M.にして...

 あの人が、この酒場に始めてきたのはいつだったろうか。
それほど遅くない時間、と言っても23時は過ぎていたと思う。
結構飲んでいたようで、少しふらついていた。

 女性は、ちょっと酔っているとかわいくなる人がいる。だらしなくなる人もいる。
しかし、彼女は初め、かわいい人だった。いやいや、だらしないと言うほど酔ったところは見ていないが...

 彼女がこの店に来るのは、月に一度ほどだろうか。
決まった曜日があるわけでもなく、時間もまちまちだ。
でも、シラフできたことはない。
どこかで友達とでも飲んで、その後にふらっと来るのだろう。

 まだ、自分のことを話すわけではない。きっと、遠慮しているのだろうね。それは、この店にまだ慣れていないと言うことだ。
そして、私にも気を遣っていると言うことなのだろう。
みんな、そうなんだ。初めからうち解ける人なんて、滅多にいない。
逆にそう言う人ほど、二度と来ない人が多い。
初め無口でも、少しずつ慣れてくるお客さまの方が長続きする。
いや、決して一見さんだってかまわない。
また来ていただけるかどうかは、お客様の判断だ。
私だって、人見知りしないわけではないのだから...

 彼女がここに来るようになって、5〜6回くらいたった頃だろうか。
自分のことを少しずつ話すようになった。
自分の年、一人で生活していること、お酒は酔うために飲むこと、
むかし好きだった男が居たこと...

 ぽつり、ぽつりと話す。それは私に語っているのか、ひとりごとなのか。でも、それが彼女はお気に入りのようだ。
変に相づちを打たれるより、黙って聞いてもらえる方が好きらしい。
きっと、男では苦労したのだろう。

そんな彼女が、ぷっつりと来なくなった。
もう、3ヶ月はたつだろう。元気にしているのならいいのだけれど。
また、変な男に引っかかっていなければいいのだけれど。

 私が心配しても仕方ないのだが、
彼女には幸せになって欲しいと思う。

 いつか、彼と一緒に来てくれたらいいのに...