あの人が、この酒場に始めてきたのはいつだったろうか。 それほど遅くない時間、と言っても23時は過ぎていたと思う。 結構飲んでいたようで、少しふらついていた。 女性は、ちょっと酔っているとかわいくなる人がいる。だらしなくなる人もいる。 しかし、彼女は初め、かわいい人だった。いやいや、だらしないと言うほど酔ったところは見ていないが... 彼女がこの店に来るのは、月に一度ほどだろうか。 決まった曜日があるわけでもなく、時間もまちまちだ。 でも、シラフできたことはない。 どこかで友達とでも飲んで、その後にふらっと来るのだろう。 まだ、自分のことを話すわけではない。きっと、遠慮しているのだろうね。それは、この店にまだ慣れていないと言うことだ。 そして、私にも気を遣っていると言うことなのだろう。 みんな、そうなんだ。初めからうち解ける人なんて、滅多にいない。 逆にそう言う人ほど、二度と来ない人が多い。 初め無口でも、少しずつ慣れてくるお客さまの方が長続きする。 いや、決して一見さんだってかまわない。 また来ていただけるかどうかは、お客様の判断だ。 私だって、人見知りしないわけではないのだから... 彼女がここに来るようになって、5〜6回くらいたった頃だろうか。 自分のことを少しずつ話すようになった。 自分の年、一人で生活していること、お酒は酔うために飲むこと、 むかし好きだった男が居たこと... ぽつり、ぽつりと話す。それは私に語っているのか、ひとりごとなのか。でも、それが彼女はお気に入りのようだ。 変に相づちを打たれるより、黙って聞いてもらえる方が好きらしい。 きっと、男では苦労したのだろう。 そんな彼女が、ぷっつりと来なくなった。 もう、3ヶ月はたつだろう。元気にしているのならいいのだけれど。 また、変な男に引っかかっていなければいいのだけれど。 私が心配しても仕方ないのだが、 彼女には幸せになって欲しいと思う。 いつか、彼と一緒に来てくれたらいいのに... |