と彼女の Pale Ale [2006/07/02・Vol.06 セカンド・シート]



素直になって...

 海沿いの道は、とても気持ちが良かった。
こんなにゆっくり、海を眺めていたのはいつ以来だろう。
少し日に焼けた私は、火照った頬を潮風で冷やしていた。
バックシートから流れてくる曲は、知らない歌だけど、とても彼らしいと思った。

 しばらく走り、漁港が見えた当たりで車は右に曲がった。
町中から左手に小さなお城が見える。
ようやく傾き始めた太陽を背に、白い壁と黒の瓦のコントラスト。
なんとなく、子供の頃を思い出していた。

 上り坂をしばらく走ると左手に川が流れ、やがて山道となった。
右に左に、彼はスムーズに、ゆったりとカーブを抜けていく。
そんな心地よいドライブの中で、私はいつしか眠りに落ちていった。

 気がついたのは、小さなホテルの駐車場だった。
えっ、まさか、と思ったが、彼はロビーに入りフロントへ向かう。
私の心の準備はまだ出来ていない。
もちろん、彼はいい人だけど...
フロントで彼はキーを受け取ったのか、2階への階段へ私を誘う。
一瞬ためらった私は、心を決めた。

 彼が、私の手を取って入った部屋は、ユトリロ、ローランサン、ルノワール、ピカソ、シャガール...、そこは小さな美術館だった。
彼は思ったよりも子供っぽい。
子供のように、私をよろこばすことだけに一生懸命だ。
彼を愛おしいと思っている私がいる。
もう、絵を見てはいない。
素直に愛していると、彼に言おう...