Short Short[2005/11/12・Vol.02 ガラス越しに消えた夏]



ときめき、とまどい、大人になる...

 なぜ、わかれてしまったのだろう。いつ、わかれてしまったのだろう。ぼくが振り向いているうちに、きみは大人になってしまったのだろうか。
 きっと、あれからいくつもの恋をして、さよならを繰り返すたびにきみはキレイになってゆくのだろう。

 あの夏を思い出したかったから?
そんなつもりでもなく握ったハンドル。次のカーブを曲がると海が見える。
 あの夏の日の大きなヨットは、今でもそこにあるだろうか。やがて、水平線からの朝の光に、照らし出されるだろうか。

 やっぱり、きみからサヨナラを言ったんだね。きみは、いつも前を見ていたよ。でも、ぼくだって振り返っていたばかりじゃない。
 きみからは、立ち止まって見えたかも知れないけど、動き始めたところだった。でも、きみはぼくから離れていった。

 海岸沿いに車を止めて、ウィンドー越しの波。きみがいなくなってからのぼくは、仕事の毎日を過ごした。
 お酒を飲むことも少なくなって、車を運転することもなくなっていった。
 海を見たのは、どれくらいぶりだろう。すっかりいろいろなことを忘れていたことを思い出す。きみを忘れていたことも思い出す。16年前にもらった財布は今でも使っているのに。

 きみは、いまでもときめいているだろうか、自分の生活に。
ぼくは日々の生活に、とまどうことも忘れてしまった。
 やっぱり、サヨナラを言えたきみの方が大人だったんだね。
ときめきと とまどいを その胸にしのばせて...



■ガラス越しに消えた夏 --大沢誉志幸・松本一起--

やがて夜が明ける 今は冷めた色
次のカーブ切れば あの日消えた夏
君は先を急ぎ 僕はふり向き過ぎていた
知らずに別の道 いつからか離れていった

サヨナラを繰り返し 君は大人になる
ときめきと とまどいを その胸にしのばせて

ツライ夜を数え 瞳くもらせた
ガラス越しの波も 今はあたたかい
君がいないだけ 今は苦しくはない
二度とは帰れない あの日が呼びもどすけれど

サヨナラを言えただけ 君は大人だったね
ときめきと とまどいを その胸にしのばせて