高橋克彦[2003/09/21・Vol.05 写楽殺人事件]





写楽とは、いったい誰だ?


 1983年に江戸川乱歩賞を受賞した作家は、高橋克彦である。作品は、『写楽殺人事件』。彼はこの他にも、1987年に『北斎殺人事件』で日本推理作家協会賞、1992年に『緋い記憶』で直木賞、2000年に『火怨』で吉川英治文学賞を受賞している。この幅の広さには脱帽である。そして確かに、小説はおもしろい。まさにエンターテイメントである。
 さて話を写楽に戻すと、東州斎写楽とはいったい誰ぞやと言うのが第一問題だ。諸説いろいろある中で、能役者の斎藤十郎兵衛説が有力だ。1997年には埼玉県越谷市の法光寺で、斎藤十郎兵衛の過去帳が見つかっている。詳しくは、下記HPの『藤十郎兵衛の過去帳』をご覧いただきたい。
 話は余談になるが、1995年には松竹が『写楽』を配給している。監督:篠田正浩、齋藤十郎兵衛:真田広之、蔦屋重三郎:フランキー堺、喜多川歌麿:佐野史郎、他にも岩下志麻・葉月里緒菜などが出演している。この映画でも、写楽は能役者・斎藤十郎兵衛と言う設定だ。
 その他の説もいろいろある。十返舎一九:宗谷真斎、葛飾北斎:由良哲次/中村公隆、山東京伝:谷峰蔵、喜多川歌麿:石ノ森章太郎、中村比蔵:池田満寿夫、歌川豊国:梅原猛、円山応挙:田口卯三郎、谷文晁:池上浩山人、蔦屋重三郎:横山隆一/榎本雄斎、酒井抱一:向井信夫、秋田蘭画家:高橋克彦。ざっとあげてもこれだけあると言うのは、それだけ謎が多く、様々な人の興味をそそる浮世絵画家なのだろう。
 写楽の版画の話を少々しよう。浮世絵自体が印象派に強い影響を与えたのは有名であるが、棟方志功なども影響を受けた一人である。しかし、かなりデフォルメされた写楽の版画は、思うに当初は受け入れがたかったのではないだろうか。それは、見る側・買う側ではなく、描かれる側としてである。「似てねぇ!」「俺は、こんなじゃねぇ!」などと思った歌舞伎役者は多かったのではあるまいか。しかし、一般庶民にとっては、そのデフォルメがかえって滑稽で、事に二枚目なんぞに対しては、半分やっかみもあり受けたのだと思う。そのうち目が慣れてくると、こう言う風に描かれることもおもしろくなってきたのだろう。まさに写楽は、浮き世を写し出して楽しんでいたのに違いない。そして、その写楽が謎の人物であることがおもしろく、誰であるかわからないからこその写楽なのではないだろうか。