五木寛之[2002/06/16・Vol.09 夜明けのタンゴ]



サッカーではない、タンゴなのだ!

 アルゼンチンといえば、先日イングランドに負けたサッカーを思い出すのが今時だ。
しかし、タンゴも忘れてはならないだろう。ある世代は、タンゴというと「黒猫のタンゴ」くらいしか思い出さないかもしれない。かくいう私も、ウンナンの芸能人社交ダンスクラブでみたくらいだろうか。
 しかし、音楽は別である。しばらく前に買った「タンゴス」はなかなかの名盤である。バンドネオンとギターだけのタンゴだ。
このCDの7曲目に「エル・チョクロ」と言う曲が入っている。初演されたのは、なんと99年前の1903年という。

 そして、「夜明けのタンゴ」という小説の登場人物の一人が「チョクロの洋子」。バンマスの「きもっちゃん」を語り部としたテレビドラマのような小説である。
 最後は、五木寛之には珍しくハッピー・エンドなのだ。この小説を読んでいつも思い出すのは、バンドネオンの「竜さん」だ。
どうも、自分のイメージの中では昔よく行った、スナック「PET」のマスターとダブル。
そして、酔っぱらいの興信所調査員の高木は、「ちゅーさん」ような感じではなかったか。あまりにもマイナーすぎるので、話を一般的に戻そう。

 おおざっぱなあらすじは、借金のかたにとられそうになった竜さんのお店「タンゲーロ」を、今はアル中だが昔はバリバリのダンスマンだった高木という男と竜さんの長女がダンス大会でタンゴを踊り、その賞金で返済しようと言うもの。
こんな書き方をすれば、ありきたりの話のように聞こえるが、音楽とダンスと人情が絡んだ日本人好みの話の展開は楽しませてくれる。ちょっと時間があいたときや、電車の中の暇つぶしにはもってこいではないだろうか。

 さて、少しだけアルゼンチンの話に戻ろう。上の写真は、氷河である。ご存じの通り、アルゼンチンは南北に長い。ず〜っと南の方に行けば、南極が間近である。
港町のボカは今はサッカーで有名になったが、タンゴ発祥の地でもあるのだ。日本から言えば地球の反対側であるが、インディオ系が多いせいか何となく身近に感じる国である。
今夜はタンゴでも聞いてはいかがだろうか。



Data:夜明けのタンゴ(昭和55年5月新潮社刊)
新潮文庫「い-15-20」、昭和58年5月15日発行
昭和55年→1980年